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あきらめないで! 関節リウマチ 

あきらめないで下さい!リウマチ治療は寛治に希望を託せる時代へ!

進化するリウマチ治療の最新情報を掲載!

「リウマチ入門」「リウマチの投薬治療」「生物学的製剤」「手術」「妊娠か

ら出産」「助成制度」などをリウマチ専門医がわかりやすく解説。

【対象】リウマチ患者さん、家族、医療スタッフ。


目次

第1章 リウマチ入門

第2章 リウマチの基本的な投薬治療

第3章 治療に新たな可能性を開く生物学的製剤

第4章 その他の治療方法と手術

第5章 リウマチの基礎療法

第6章 骨粗鬆症の治療と妊娠から出産までの治療

第7章 助成制度の活用


はじめに

意外と短いリウマチの歴史

そもそも人間はいつごろからリウマチという病気に悩まされていたのでしょうか.実はリウマチという病気がいつごろ人類の歴史に出現したのかについて定説はありません.紀元前のアメリカ大陸の先住民の化石から,骨の障害の跡が見つかり,これがもっとも古いリウマチではないかといわれたこともありますが,確証は得られていません.

それからはるかに時代を下ったヨーロッパで,比較的確からしいリウマチの証拠が残っています.たとえば17世の前半に活躍したルーベンスの絵の中に手指の変形した老婆が描かれており,この絵こそが世界最初にリウマチの存在を示したものではないかとの説があります.

19世紀の後半から20世紀にかけて活躍したフランス印象派の画家ルノアールがリウマチにかかっていたことはよく知られた事実です.晩年は車椅子に座り,絵筆を紐で指のあいだに括りつけてカンバスに向かった話は有名です.

それはともかく厳密に医学的な記述としてリウマチが現れたのは西暦1800年のことでした.フランスのボーヴァリという医師が原発性消耗性痛風と記載した記録が残っており,これが医学専門書におけるリウマチの最初の記録だとされています.

その後,1857年,イギリスのアダムスが慢性リウマチ関節炎という病名を提唱しています.

そして,ようやくにしてリウマチの診断基準が作られたのは,1958年のことでした.アメリカリウマチ学会によってはじめて作られたこの診断基準はあまりにも煩雑なもので日常診療にそぐわないものであったため,1987年により簡略化された分類基準に改定されました.

その後,この基準はリウマチ診断のスタンダードとされ世界中で使われてきました.

しかし,この基準ではリウマチの早期診断に不向きで関節破壊の進行を抑える薬物療法の開始が遅れるとの理由から,アメリカ・ヨーロッパリウマチ学会は共同の新分類基準として2010年さらなる改定を行っています.

このように歴史を紐解いてみると,リウマチという病気を人類が認知してからまだ150年ほどしか経っていないことがわかります.私たち医師にはまだまだ進歩する余地が残されていると思わざるをえません.

早期発見・早期治療に希望を託せる時代に

私が医師になったのは1984年ですが,考えてみると自分が医師として歩んでいった時期はちょうどリウマチの治療法がいちじるしい進化を遂げていく時代に重なっているようです.

そういう視点から見ると,私たち医師のめざすリウマチ治療のゴールがほぼ10年刻みで進歩していることがわかります.

1980年代までのリウマチ治療は非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)やステロイドによりおもに痛みを取り除くことが主流でした.

それが1989年に欧米でメトトレキサート(MTX)が承認されたのを契機に,免疫異常を是正する治療へと踏み出し,さらに1998年には生物学的製剤が承認されるにいたり,破壊された関節を修復することさえ視野に入ってきたのです.

リウマチの患者さんが,一生治らないとあきらめるのではなく,早期発見・早期治療により寛治に希望を託せる時代へと変わってきたのです.

わが国ではMTXが欧米に遅れること10年,生物学的製剤が同じく欧米に遅れること5年(2003年)でようやく承認されています. ここには薬事行政の問題や私たち医師の受け入れ態勢など,改善すべき課題があるといえます.

リウマチ治療の進歩は薬剤開発だけではありません.

人工関節も,1890年にドイツ人のグラックによって象牙製のものが作られて以来,次々と改良され,1970年代には現在使用されている人工関節の原型となるものが開発されました.

ちなみに最新の人工関節は初期の数年しか耐用年数がもたなかったものから20年以上もつものへと進化しています.

手術手法も大きな進歩を遂げてきました.近年では,コンピュータを応用した手術手法も開発され,将来的には標準的な手術であれば,正確かつより短時間での手術が医師のキャリアに関係なく誰でも行える時代が来るようにも思えます.

このようにリウマチ治療の前途にはまだまだ進歩する余地が残されているといえます.そして最後に,本書を手に取ってくださった患者さんが,少しでも病魔から解放されんことを願っております.